派遣登録をしたのに、希望していた職場になぜか採用されなかった――そんな経験はありませんか?「条件に合う求人を紹介します」と言われていたのに、実際は全く違う職場を勧められることもあります。実はそこには、派遣会社側の“戦略的な事情”があります。この記事では、20年以上派遣営業をしてきた私が、希望が通らない本当の理由と、希望に近づくためのコツをお伝えします。
希望通りの派遣先に採用されない理由
「希望と違う現場を紹介された」「断ったら連絡が減った」――こうした不満は、派遣スタッフの登録面談でよく耳にします。派遣会社はスタッフの希望を無視しているわけではありません。しかし、派遣業というビジネスの構造上、どうしても“企業側を優先せざるを得ない”現実があります。まずは、その根本的な理由を整理してみましょう。
派遣会社のビジネス構造は企業寄り
派遣会社の顧客は、実は「スタッフ」ではなく「企業側」です。スタッフが働くことで、初めて企業から派遣料金が発生します。そのため、派遣会社は企業との関係を最優先に考えます。たとえスタッフの希望と少しズレていても、クライアントから「今すぐ人を入れてほしい」と頼まれれば、営業はそちらを優先せざるを得ません。つまり「スタッフの希望」よりも「企業の要望」が現場配置に強く影響しているのです。
スタッフの希望条件が現実と合わない
派遣登録時、希望条件が細かく設定されすぎると、マッチングできる現場は急激に減ります。特に「短時間」「土日休み」「残業なし」「高時給」など、人気条件をすべてそろえるのは難しい。営業としては「どれか一つだけ譲れますか?」と聞きたくなる場面が多々あります。結果的に、希望条件を満たす案件がなければ、派遣会社は“紹介できない”か“別の案件を提案する”しかないのです。
面接では企業側に最終決定権がある
派遣契約では、本来「派遣先による面接」は禁止されています。派遣法では、派遣スタッフの採用・選定は派遣元(派遣会社)が行うと定められており、派遣先が直接「この人にする・しない」と判断することはできません。
しかし実際の現場では、「職場見学」や「顔合わせ」という名目で、実質的な面接が行われることが多くあります。ここでの印象や対応によって、派遣先が「この方でお願いします」または「別の方を」と伝えるケースがほとんどです。
つまり、形式上は派遣会社が判断しているように見えても、実際の採否の決定権は企業側にあるのが実情です。
中には「もう一度別の担当者と会ってから決めたい」と言われる“二次面接”のようなケースもあり、これは明確に法律上は違法行為にあたります。
営業現場では、こうしたグレーな部分に苦慮しながらも、企業とスタッフ双方に納得してもらえるよう調整を行っているのが実態です。
派遣会社が重視する「人を入れたい現場」とは
派遣営業は常に「どの現場を埋めるか」に頭を悩ませています。派遣会社には数十〜数百の派遣先がありますが、すべて同じ重要度ではありません。会社として“優先的に人を入れたい現場”が存在し、そこに営業担当のエネルギーが集中します。では、どんな現場が優先されるのか――その理由を解説します。
契約更新率が高く安定している現場
派遣会社にとって、契約更新率が高い現場は“安定収益”の源です。スタッフが長く続けば営業の負担も減り、売上も安定します。そのため、こうした現場に人を配置することを優先します。反対に、離職が多い現場は「人を入れてもすぐ辞める」というリスクがあり、採用コストが重くのしかかります。営業担当は「定着する人」を探すため、希望より“適性重視”で紹介を進めることが多いのです。
取引金額が大きい主要クライアント
派遣会社にとって、取引金額が大きい主要クライアントは“経営を支える柱”です。月に数十人単位の派遣スタッフを抱えるような企業は、年間の取引額が数千万円規模に達することも珍しくありません。そうした企業から「急ぎで人を入れてほしい」と依頼があれば、営業部門全体で最優先に動きます。
実際の現場では、営業担当が他の案件対応中でも「〇〇社のラインが欠員」と聞けば、即座にスタッフ提案に切り替えるほどのスピード感があります。会社としても、主力クライアントを満足させることが最優先課題です。なぜなら、ここを疎かにすれば、契約更新が止まり、会社の売上にも直結するためです。
その一方で、スタッフ目線では「自分の希望より、会社都合で紹介されている」と感じることもあるでしょう。しかし、派遣会社が主要クライアントとの関係を維持できなければ、結果的に紹介できる仕事そのものが減ってしまいます。つまり、“一部の大口取引先を守ることが、全体の雇用を守る”構図が派遣業界の裏にあります。
営業担当としては、このバランスを取りながら「企業の満足」と「スタッフの希望」をどう両立させるかが腕の見せどころです。
欠員が多く常に人手不足の現場
食品工場、倉庫、物流系などの現場では、慢性的に人手不足が続いています。営業担当は「埋まらない現場」を常に意識しており、そこへ人を送り込むよう求められます。その結果、「あなたの条件に合う仕事」と言いつつ、実際には“空いている現場”を紹介してしまうこともあります。これは派遣会社の戦略的判断であり、営業担当個人の意思だけでは変えられない部分です。
面接者(スタッフ)の希望が通らない背景
派遣登録時の希望条件と、実際の採用結果にはギャップが生じがちです。その背景には、単なる“ミスマッチ”ではなく、派遣システム特有の構造が関係しています。営業の現場では、希望より「今すぐ働ける人」「現場に合う人」が優先される傾向があります。その現実を理解することが、より良い就業への第一歩になります。
派遣先が求める人物像とのズレ
派遣先企業は「即戦力」「職場に馴染める人」「欠勤が少ない人」など、独自の基準で採用判断をします。どんなにスタッフ本人がやる気を見せても、企業の基準と合わなければ採用されません。営業担当はそのフィードバックをもとに、別の現場を提案します。つまり“企業が求める人材像”に合致しなければ、希望は通らないという構造です。
「すぐに入れる人」を優先する事情
派遣業界では“スピード命”が基本です。現場から「明日から来てほしい」「今週中に人を入れて」と依頼されることは日常茶飯事です。そのため、希望条件がどれほど理想的でも、「1週間後から働きたい」と答えた時点で、次点扱いになることがあります。逆に「明日から行けます」と言うだけで、一気に採用確率が上がるのです。
営業担当にとってもスピードは死活問題です。派遣先から人員の要請があっても、対応が遅れれば他社に案件を取られてしまう可能性があります。派遣業界では、早く動いた会社がその仕事を取るという競争構造があり、1日遅れるだけで数十万円規模の契約を失うこともあります。
そのため、営業側は「今すぐ勤務できる人」を常に優先せざるを得ません。たとえ希望職種や勤務地が少しズレていても、まずは空いている現場に早く入ってもらうことで、企業との信頼を維持し、次のチャンスにつなげる狙いがあります。
つまり、スピード重視の背景には「案件を守るための営業判断」があります。スタッフから見れば不公平に感じるかもしれませんが、派遣会社にとっては一つの“生き残り戦略”でもあるのです。
社内調整や担当者の判断も影響
営業担当やコーディネーターは、それぞれの担当現場を抱えています。そのため、「A担当の現場に人を入れるより、B担当の現場を優先して」など、社内での調整も発生します。こうした“社内の事情”が紹介内容に影響することもあります。スタッフから見ると不透明ですが、実際には社内バランスが採用結果を左右するケースも少なくありません。
希望に近い職場で働くためにできること
派遣会社の事情を理解したうえで、自分の希望に少しでも近い職場を選ぶにはどうすればいいのでしょうか。大切なのは「戦略的に登録・交渉する姿勢」です。希望をただ伝えるだけでなく、“選ばれやすいスタッフ”として印象を高めることが重要です。営業目線で、実際に効果のあった方法を紹介します。
条件の優先順位を明確にしておく
派遣の仕事を探すときに大切なのは、「自分の中でどの条件を優先するか」をはっきりさせておくことです。たとえば「時給を重視する」「勤務地を重視する」「残業が少ない職場を重視する」など、人によって軸は違います。どれも大事にしたい気持ちはわかりますが、すべてを完璧に満たす案件はほとんどありません。
また、希望条件を1社に絞り込みすぎるのも注意が必要です。派遣の求人は「タイミング次第」で動くことが多く、他社では同じ条件でまだ募集している場合もあります。複数の派遣会社や求人サイトを見比べながら、自分の優先順位に合う仕事をいくつか並行して検討するのが現実的です。
営業担当として見ても、条件をはっきり伝えてくれるスタッフほど紹介がスムーズです。「時給は多少下がっても通勤しやすい場所がいい」「多少遠くても時給を優先したい」など、柔軟な考え方を共有できると、マッチングの可能性が一気に広がります。
複数の派遣会社に登録して比較する
派遣で仕事を探すときは、1社だけで決めずに複数の派遣会社へ登録して比較するのが基本です。なぜなら、同じ職種・勤務地でも「時給」「勤務条件」「フォロー体制」が会社によって驚くほど違うからです。派遣会社ごとに得意とする業界や取引先も異なり、たとえばA社は食品工場に強く、B社は物流倉庫が多い、C社はオフィスワーク中心といった特徴があります。
また、営業担当者の対応の良し悪しも重要な比較ポイントです。登録や面談の際に「話をしっかり聞いてくれるか」「条件に合わない仕事を無理にすすめてこないか」などをチェックしましょう。営業担当の姿勢は、就業後のフォロー体制にも直結します。
複数社に登録することで、選択肢が広がるだけでなく、「自分の市場価値」を客観的に把握することもできます。たとえば、ある会社では時給1,200円の提示でも、別の会社では同じ内容で1,300円ということもあります。こうした比較をすることで、より納得感のある仕事選びができるようになります。
ただし、同時進行する場合はスケジュール管理にも注意が必要です。複数の面談や職場見学が重なると、どの会社にどんな条件で応募したか混乱することもあります。登録時にメモを取る、管理用のノートやアプリを使うなど、整理しながら進めるとスムーズです。
担当営業に率直に意見を伝える
「前回紹介された現場は少し合わなかった」など、正直なフィードバックを伝えることは悪いことではありません。むしろ営業側はその意見をもとに、次の提案を調整します。信頼関係ができると、優先的に案件を回してもらえることもあります。“言われたまま働く”より“対等なパートナー”として接する姿勢が大切です。
面接(見学)時は印象を重視する
派遣の面接(正確には職場見学)は、スキルや経験以上に「印象」が重視されます。たとえ履歴書や職歴が十分でなくても、明るく感じの良い人が採用されるケースは多いのが実情です。なぜなら、派遣先の担当者が「一緒に働くイメージ」を重視しているからです。職場は人間関係で成り立っており、チームの雰囲気に馴染めるかどうかが判断基準になるのです。
そのため、見学の際は笑顔や挨拶を意識しましょう。緊張していても「感じがいい人」という印象を与えられるだけで、結果が変わることがあります。営業担当者として同席していても、明るいトーンで受け答えしている人の方が採用されやすいのは明らかです。服装や身だしなみも、清潔感を意識することが大切です。
また、面接(見学)は企業があなたを選ぶ場であると同時に、あなたが企業を見極める場でもあります。担当者や現場の雰囲気、説明の丁寧さ、社員の表情などをよく観察しましょう。「ここで働きたい」と思えるかどうかは、仕事を続ける上で大きな要素です。逆に、違和感や不安を感じる場合は、無理に決める必要はありません。自分の感覚を信じて、納得できる職場を選ぶことが長続きにつながります。
まとめ
希望した職場に採用されない背景には、派遣会社の営業的な事情や企業側の判断が複雑に絡み合っています。しかし、その構造を理解すれば、スタッフ自身が「選ばれやすい人」になることは可能です。派遣会社を責めるのではなく、うまく利用する視点を持つことで、理想の働き方に一歩近づけます。


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