「無期雇用派遣」という言葉を聞くと、正社員のように長く安定して働けるイメージを持つ人も多いでしょう。実際、求人広告でも“安定”“長期”“雇用の安心”といった言葉が並びます。しかし、現場の実情はそのイメージとは少し異なります。名目上は「無期」でも、実際の働き方や待遇は派遣先の契約状況に大きく左右されるのが現実です。
無期雇用派遣とは?
派遣と聞くと、契約期間が決まった「有期雇用」を思い浮かべる人が多いでしょう。そんな中で登場したのが「無期雇用派遣」という仕組みです。派遣会社がスタッフを期間の定めなく直接雇い、派遣先に送り出す働き方で、形式上は“安定雇用”とされています。ただし、実際には派遣先の契約状況に左右される側面が大きく、制度の理解なしに選ぶとギャップを感じるケースもあります。
法改正と制度の成り立ち
無期雇用派遣が広がった背景には、2013年の労働契約法改正と、2015年の労働者派遣法改正の2つがあります。労働契約法では、有期契約で同じ会社に5年を超えて勤めると、本人の申し出によって無期契約に転換できる「5年ルール」が導入されました。一方で、派遣法の改正により、同じ職場(組織単位)で同じ人が働けるのは最長3年までと定められました。これにより、派遣会社は3年を迎えるスタッフを無期雇用として自社に残す方針をとるようになりました。
表向きは「本人の希望による転換制度」ですが、実際には希望の有無にかかわらず、無期雇用へ切り替えなければ同じ職場での勤務を続けられないケースがほとんどです。つまり、制度上は選択肢があるように見えても、現場では“無期を選ばざるを得ない”仕組みとして運用されているのが実態です。
一見「正社員に近い」と思われる仕組み
無期雇用派遣は、派遣会社に直接雇われるため、形式上は「正社員に近い」と言われます。求人でも“社会保険完備”“昇給あり”“安定雇用”といった文言が並び、働く側から見ると安心感のある制度に見えるでしょう。しかし実際は、派遣会社との雇用が続くだけで、派遣先での雇用が保証されるわけではありません。派遣先の契約が終了すれば、勤務場所も仕事内容も変わります。つまり、雇用契約上の“安定”と、働く現場での“安定”はまったく別物なのです。
派遣先が変わるのが前提の働き方
無期雇用派遣は、派遣会社と期間の定めなく契約を結ぶものの、実際に働く職場は常に「派遣先企業」です。つまり、同じ会社に雇われていても、勤務先や仕事内容は派遣先の契約状況によって次々と変わります。派遣先の業務が終了すれば、次の就業先が決まるまで待機となることもあります。中には勤務地が大きく変わるケースもあり、通勤が困難になることも少なくありません。無期であっても、働く環境や条件が安定して続くわけではなく、常に変化に対応していく働き方が求められるのです。
名ばかり“無期”の実態
「無期雇用」と聞くと安定を想像しがちですが、実際は雇用契約の形と日々の働き方・収入が一致しないことが少なくありません。本章では、待機期間の扱いや給与の不備、頻繁な配置転換や遠方派遣といったリスク、派遣先契約の終了が生活に与える影響など、表向きの安心と現実のギャップを実例交えて掘り下げます。
待機期間は給料ゼロ?現実の待遇
無期雇用派遣といっても、派遣先の契約が終われば仕事がなくなる点は同じです。次の派遣先がすぐに決まればよいのですが、そうでない場合は「待機期間」と呼ばれる空白が発生します。本来、会社との雇用関係が続いている以上、この期間も給与が支払われるのが筋です。しかし実際には、「自宅待機中は給与なし」「社内研修扱いで最低限の手当のみ」など、会社によって対応はさまざま。中には待機が長引いた結果、事実上の“休職状態”となるケースもあります。名ばかりの無期契約が、働く人にとって安定どころか不安要素になっているのが現実です。
配置転換や遠方派遣のリスク
無期雇用派遣では、派遣会社と期間の定めなく雇用契約を結ぶため、派遣先の業務が終了しても雇用関係は続きます。しかし同時に、次の派遣先がどこになるかは会社の判断次第です。通勤可能な範囲ならまだしも、場合によっては片道数時間、さらには転居を伴う遠方派遣を打診されることもあります。拒否すれば「本人都合の退職」とみなされるケースもあり、実質的には選択の余地がないことも少なくありません。無期雇用とはいえ、安定して同じ地域・条件で働けるとは限らず、“雇用の継続=生活の安定”ではないという現実が浮き彫りになります。
なぜ派遣会社が無期化を進めるのか
近年、派遣会社のあいだで「無期雇用化」を積極的に進める動きが目立っています。
表向きには“安定した働き方を提供するため”と説明されますが、実際のところは会社側の事情による部分が大きいのが実態です。
無期化を進める背景には、派遣法で定められた「同一の職場で働ける期間の制限」や「有期雇用の通算5年ルール」など、法律上の制約を回避する目的があります。
“5年ルール”回避のための制度活用
「無期雇用派遣」という制度が広がった背景には、労働契約法で定められた“5年ルール”の存在があります。
このルールは、有期契約で同じ会社に通算5年以上働いた労働者が、申し出をすれば無期契約に転換できるというものです。
本来は、長期間働く人の雇用を安定させるための仕組みですが、派遣の場合は少し事情が異なります。
同じ職場で働ける期間(原則3年)が法律で制限されているため、派遣会社としては契約更新の上限や直接雇用への転換リスクを避けたいという思惑が生まれます。
そこで利用されるのが「無期雇用派遣」。
形式上は自社で無期雇用に切り替えることで、5年を超えても派遣スタッフを別の職場で継続雇用できる仕組みを作り出しているのです。
会社側のメリットが大きい理由
無期雇用派遣は、一見すると「スタッフの安定雇用を守る制度」に見えますが、実際には派遣会社側のメリットが非常に大きい仕組みです。
まず、無期契約にすることで、派遣会社は人材を自社の「社員」として囲い込み、他社への流出を防ぐことができます。
また、派遣先が変わるたびに新しいスタッフを採用・教育する手間が減り、採用コストの削減にもつながります。
さらに重要なのは、派遣先企業に対して長期的な人材提供がしやすくなる点です。
「無期雇用社員であれば、いつでも派遣可能」という形をとることで、法的な制約を避けつつ、実質的には“派遣期間の延長”を実現しているケースもあります。
つまり、会社側から見れば「安定雇用を装いながら、業務継続と利益を確保できる制度」と言えるのです。
無期雇用派遣を選ぶ前に知っておきたいこと
「無期」という言葉だけを聞くと、長く安定して働けるイメージを持つ人も多いでしょう。
しかし、派遣会社における“無期雇用”は、正社員や直接雇用とは大きく異なる仕組みです。
契約上は派遣会社の社員であっても、実際に働く場所は派遣先であり、業務内容や勤務地を選べないケースも少なくありません。
そのため、無期雇用派遣を選ぶ前には、給与体系や待機中の扱い、異動のルールなどを具体的に確認しておくことが大切です。
ここからは、制度の仕組みを理解するうえで特に注意すべき2つのポイントを紹介します。
給与体系と待機時の扱いを確認
無期雇用派遣の注意点としてまず確認すべきなのが、給与の仕組みと待機期間中の扱いです。
無期契約とはいえ、実際の給与は「月給制」であっても派遣先で働いた時間をもとに算出されることが多く、必ずしも固定給とは限りません。
また、派遣先の仕事が一時的に途切れた場合でも「自社で雇用を維持する義務」はありますが、実際には待機扱いとして最低限の基本給のみ支給されるケースも見られます。
さらに、待機が長引くと「別の派遣先での就業をお願いしたい」と配置転換を打診されることもあり、その際に希望しない職場や勤務地になることも。
契約上は“無期雇用社員”であっても、派遣先が決まらなければ実質的に収入が減る可能性がある点は理解しておく必要があります。
「無期=安定」とは限らない現実
「無期雇用」と聞くと、正社員のように安定して働けると感じるかもしれません。
しかし、実際の無期雇用派遣は、契約上の“期間の定めがない”だけであって、雇用の中身が安定しているとは限りません。
派遣先の業務が終了すれば配置転換や遠方派遣が発生することもあり、働く場所や仕事内容が常に変わる可能性があります。
また、会社都合で派遣先が決まらない期間が続くと、形式上は在籍していても実際の収入は下がり、精神的な不安定さを感じる人も少なくありません。
つまり「無期=安定」とは言い切れず、むしろ会社側の都合に柔軟に応じなければならない働き方になることもあります。
制度の名称だけで判断せず、実際の雇用条件と働き方のバランスを見極めることが大切です。
実際によくあるトラブル・事例紹介
事例1:無期化直後に、遠方の現場へ異動命令
あるスタッフは、契約更新のタイミングで「無期雇用に切り替えませんか」と案内を受け、安定を期待して承諾しました。
しかし数か月後、現在の派遣先との契約が終了すると同時に、「次は○○市の工場で働いてほしい」と、通勤が難しい距離の派遣先を指定されました。
本人が通勤困難を理由に断ると、「無期社員なので、会社の指示に従えない場合は自己都合扱いになります」と説明され、結果的に退職を選ばざるを得ませんでした。
名目上は無期雇用でも、勤務地を選べないリスクがあることを痛感した例です。
事例2:派遣先がなくなり、収入が半減
別のスタッフは、製造系の派遣先が業績不振で契約終了になったあと、なかなか次の派遣先が決まらず“待機”の状態が続きました。
会社からは「無期雇用なので雇用は継続です」と言われたものの、支給されたのは基本給の6割程度。
「仕事がないのに出勤扱い」という形で日々を過ごすことになりました。
結果として、雇用は続いても生活は不安定。
“無期=収入が安定”ではない現実を示す典型的なケースです。
まとめ
無期雇用派遣は、一見すると安定して働ける魅力的な制度に見えます。
しかし実際には、派遣会社の制度上の都合によって設けられた側面が強く、働く人にとって必ずしも安心できる仕組みとは限りません。
勤務地の指定、待機時の給与、遠方派遣の可能性など、契約上のルールを十分に理解したうえで判断することが大切です。
もし提案を受けた際は、「無期」という言葉だけで決めず、具体的な雇用条件と自分の働き方に合っているかを慎重に確認しましょう。
安定を求めて選んだはずの制度が、結果的に不安定さを生むこともあります。
制度の表面ではなく、その“中身”を見極めることが、後悔しない選択につながります。


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