派遣会社の「マージン率」。
よく「ピンハネ」と揶揄されることもありますが、実際の仕組みや現場での運用を正しく理解している人は少ないものです。
契約書や給与明細には表れない“派遣会社の取り分”には、社会保険料や教育研修費、営業コストなど、多くの費用が含まれています。さらに、現場では契約金額とスタッフの時給が必ずしも比例しないケースも少なくありません。
本記事では、20年以上派遣営業として現場を見てきた筆者が、マージン率の仕組みと現実、そして数字の裏側にある現場事情をわかりやすく解説します。
「マージン率」という言葉だけではわからない、派遣業界のリアルを知ることができます。
そもそもマージン率とは?基本の仕組みを解説
派遣会社のマージン率とは、簡単に言うと 「派遣スタッフが働いた時間に対して、派遣先企業が支払った金額から、スタッフに支払われる給与を差し引いた割合」 です。
つまり、派遣会社の取り分を示す数字であり、スタッフがもらう給与と契約金額の差から算出されます。
この数字だけを見ると「派遣会社が利益を吸い取っている」と誤解されやすいですが、実際は社会保険や教育費、営業コストなども含まれています。
マージン率の定義と計算方法
マージン率は文章で表すと次のように計算できます。
マージン率(%)=(派遣先企業が支払う総額 - スタッフの給与) ÷ 派遣先企業が支払う総額 × 100
たとえば、派遣先が1時間あたり3,000円支払い、スタッフに2,000円支払った場合、
「3,000-2,000 ÷ 3,000 × 100 = 33%」
となります。
この数字はあくまで割合であり、会社の利益すべてを意味するわけではありません。社会保険料や教育研修費などもここから差し引かれます。
派遣法で公開義務がある理由
派遣法では、派遣会社はマージン率をスタッフに公開する義務があります。
これは、スタッフ自身が給与や待遇の妥当性を判断できるようにするためです。
公開は会社の透明性を確保する目的でもあり、契約前に確認できることで安心して働くための材料となります。
ただし、数字だけでは会社のサポート体制や教育制度、待機時の対応など、実際の働きやすさは見えないため、注意が必要です。
よくある「ピンハネ」の誤解
「派遣会社はピンハネしている」という言葉を聞くことがありますが、実際には社会保険料や福利厚生、教育研修費、営業コストなども含まれているため、すべてが利益ではありません。
また、契約金額とスタッフへの給与が必ずしも比例しないのは、営業報酬や会社の利益管理の都合によるものです。
数字だけで判断すると誤解しやすいですが、これらのコストはスタッフの安全や教育、トラブル対応にも使われていることを知ることが重要です。
業界でのマージン率の実態と相場感
派遣業界のマージン率は、会社の規模や業種、職種によって大きく異なります。
数字だけを見て「高い=悪」「低い=良心的」と判断するのは危険です。
ここでは、実際の相場感と大手・地場派遣会社の違いを解説し、数字の裏にある現実を整理します。
大手と地場で異なるマージン率の傾向
大手派遣会社では、安定した営業基盤や管理体制を背景に、マージン率は40~50%程度になることも珍しくありません。
一方、地場派遣会社は地域密着型で柔軟な対応ができる反面、営業規模が小さくコストを抑える必要があるため、マージン率は20%~30%前後で運用されることが多いです。
数字だけを見ると大手の方が高く見えますが、提供できるサービスやサポートの範囲が異なることも理解しておく必要があります。
職種・業種による違い
事務職や軽作業、製造など職種ごとにマージン率は変動します。
専門性が高く派遣先の要求が厳しい技術職では、契約単価が高くなるためマージン率も高めに設定されることがあります。
逆に単純作業や低単価の職種では、マージン率が低くてもスタッフの給与自体は相対的に低くなる場合があります。
つまり、職種ごとの違いを考慮しないと、数字だけで比較するのは危険です。
数字だけでは見えないサービスの差
同じマージン率でも、会社によって提供するサービスやサポート内容は異なります。
教育研修の充実度、トラブル対応のスピード、福利厚生の手厚さなどは数字には現れません。
数字が低い=スタッフに有利とは限らず、総合的な視点で会社を選ぶことが大切です。
マージン率の内訳 どこにお金が使われているのか
派遣会社が得るマージン率は、すべて利益として残るわけではありません。
実際には、スタッフを安全・快適に働かせるための費用や、営業・管理にかかるコストが含まれています。
ここでは、マージン率の主な内訳とその役割を具体的に見ていきます。
社会保険・福利厚生などの法定費用
派遣スタッフには、社会保険や雇用保険、労災保険への加入が法律で義務付けられています。大手派遣会社では、この法定加入を徹底し、有給休暇や健康診断などの福利厚生もきちんと実施しています。スタッフが安心して働ける環境を維持するために、短期契約であっても必要な手続きを怠らず、法令順守を最優先にしています。
一方で、地場派遣会社では、経費節約のために2か月未満の短期契約を多用し、社会保険加入の義務が発生する期間を回避することがあります。また、有給休暇や健康診断などの福利厚生が後回しにされることも少なくありません。こうした差は、スタッフの安全や健康管理に直結し、長期的な働きやすさにも大きく影響します。
マージン率の数字だけを見ると同じように見えても、法定費用や福利厚生の徹底度の違いは、会社の信頼性やスタッフの安心感に大きく反映されます。派遣会社を選ぶ際には、この点も重要な判断材料となります。
営業・管理コスト
派遣会社が得るマージン率の一部は、営業や管理にかかるコストとして使われます。営業担当の人件費、企業への訪問・契約手続き、現場管理、システム運用などがこれに含まれます。大手派遣会社では営業や管理部門が大規模で、スタッフ数や契約件数も多いため、これらのコストは無視できません。営業担当が契約を丁寧に管理し、スタッフと派遣先の両方のフォローを行うことは、安心して働くための重要な支出です。
一方、地場派遣会社では、営業や管理体制が小規模な場合が多く、コストを抑えるために担当者1人が複数の業務を兼務することもあります。結果として、スタッフへのフォローが十分でなかったり、現場トラブル対応が遅れることもあります。数字だけでマージン率を比較しても、このような運営体制の差があることを理解することが大切です。
教育研修・トラブル対応などのサポート費用
派遣スタッフのスキル向上や安全管理のための教育研修も、マージン率の重要な使い道の一つです。大手派遣会社では、自社研修施設を構えたり、独自の教育プログラムを用意して、派遣前に1週間程度の研修を実施することもあります。これにはスタッフの給与も含まれ、派遣会社が負担します。このような研修は、スタッフが安心して派遣先で業務に取り組めるようにするための投資であり、マージン率が単なる利益ではなく、現場の安全や教育に使われていることを示しています。
一方、地場派遣会社では、研修体制が簡易的で短期間の説明のみで現場に送り出すこともあり、教育やフォローにかけられるコストは相対的に少なくなりがちです。また、現場でのトラブル対応や欠勤・交代要員の手配も大手ほど手厚くはなく、スタッフのサポート体制に差が出ることがあります。マージン率を理解する際には、こうした教育・サポートへの投資も含めて考えることが重要です。
広告宣伝費
マージン率の中には、営業やサポート費用だけでなく、広告宣伝費も含まれています。大手派遣会社では、テレビCMや大々的な媒体展開、自社ウェブサイトの運営・制作などに多額の費用を投じています。こうした広告活動は、知名度向上や求職者の獲得、企業からの信頼獲得につながるため、マージン率に影響し、比較的高めに設定される傾向があります。
一方で、地場派遣会社では広告費を最小限に抑えることが多く、地域密着型で口コミや紹介を中心に営業を行う場合が多いため、マージン率は低めになる傾向があります。数字だけを見ると大手のマージンが高く感じられますが、その背景には安心・信頼のための投資も含まれていることを理解することが重要です。
マージン率の裏側にある現場事情と注意点
派遣業界では、契約金額やマージン率の数字だけでは見えない現場のリアルがあります。
スタッフ目線では「契約単価が高いのに自分の時給は変わらない」というギャップが起こることも多く、会社の利益配分や運営方針を理解することが大切です。
大手派遣会社の利益追求と高マージン
大手派遣会社では、管理費や広告宣伝費、研修費など固定コストが非常に大きく、マージン率は40~50%程度に設定されることも珍しくありません。
さらに、ネームバリューや営業力を活かして、欠員が多い現場を高単価で一気に契約することがあります。私が営業現場で見た例では、1日で数十人分の契約をまとめて取得し、契約単価も通常より高めに設定されることがありました。しかし、スタッフへの支払い率は固定で、給与にはほとんど反映されず、残りは会社の利益として計上されます。
こうした状況から、大手の高マージンは必ずしもスタッフ還元を意味しないことが分かります。
地場派遣会社の取り分とスタッフ還元
一方、地場派遣会社では管理費や広告費が少なく、契約単価は大手より低めになることが多いです。しかし、会社の取り分を意図的に下げて、スタッフに大手並みの時給を支払うケースもあります。私が関わった現場では、契約単価自体は大手より低くても、地場派遣会社が自社の利益を削って時給を引き上げ、スタッフが満足できる給与を確保している例もありました。
数字だけでマージン率を比較すると、地場の方が損をしているように見えますが、実際にはスタッフ還元の観点では有利になることもあります。
現場での契約金額とスタッフ給与のギャップ
営業現場では、契約金額が高くてもスタッフ給与に反映されないことが日常的にあります。例えば、会議で「この現場はこの金額まで出せる」「自分はこの金額で契約を取ってきた」と同僚が自慢している光景を目にすることがありました。しかし、スタッフに支払われる時給はいつも通りで、差額は会社の利益として残るだけです。
こうした契約金額と給与のギャップは、派遣会社の利益構造やマージンの使われ方を理解しないと見えません。数字だけでは判断できない現実の一例です。
スタッフが見るべき判断ポイント
派遣会社を選ぶ際には、マージン率の数字だけで判断せず、次の視点を確認することが重要です。
・会社の利益配分方針(スタッフ還元の割合)
・教育研修や福利厚生の充実度(研修施設の有無、給与支払い込みか)
・トラブル対応や現場フォローの手厚さ(欠員対応や交代手配のスピード)
・契約金額とスタッフ給与の関係(固定支払い率か、還元の仕組み)
こうした現場事情を理解することで、数字に惑わされず、安心して働ける職場を選べます。
まとめ
派遣会社のマージン率は、数字だけでは判断できない多くの背景があります。大手では管理費や広告宣伝費、研修費などの固定コストが大きく、契約金額が高くてもスタッフへの還元が限定されることがあります。一方、地場派遣会社では管理費が少なく、自社の取り分を削ってスタッフに高い時給を支払うケースもあります。
重要なのは、単純にマージン率の数字に惑わされず、福利厚生や研修の充実度、トラブル対応の手厚さ、契約金額と給与の関係などを総合的に判断することです。これにより、安心して長く働ける職場を見極めることができます。


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